2021年度第一回GBSセミナー(2021/4/26)

日時:2021年4月26日(月) 17:30~
場所:理学部1号館336号室+オンライン
演題:生態系地球化学 ~地球システム学とオミクスの間~
講演者:板井啓明 准教授
要旨:
「気候変動に代表される地球表層システムの摂動に伴い、高次生物に含有される特定元素濃度はどのように変化するか?」という問いを立てた時、答えるべきはどの分野の学者だろうか。生態学者は有力候補だが、私は系を問わずに元素の挙動を追跡する地球化学者が適任だと考える。C, H, N, S, O, Pなどの主要生元素を除けば、この問題を扱う国内地球化学者は多くはないので、私はこれに取り組もうと考えている。この知的体系を組み上げるには、環境・低次生態系・高次生態系を通貫する展望が必要である。各段階における技術的課題と、我々の取り組みについて紹介したい。

(1)  水圏高次生物への微量元素の生物濃縮性評価法
魚類や海棲哺乳類など、水圏食物網の上位に位置する生物の組織中元素濃度変動は、寿命の長さや、餌生物・回遊履歴の多様性から、考慮すべき要因が多い。一方、恒常性の高い元素は、環境や生態系構造の変化に依らず一定の濃度範囲に収まるであろう。これら要因についての基礎知見を得るための研究として、(i)海洋生物の食物網を介した微量元素移行、(ii)カツオ筋肉中微量元素濃度の地域差とその要因、(iii)カツオ筋肉中イオウ形態の海域間比較、(iv)海洋生物における鉄安定同位体比分布の特徴、(v)天然魚類の水銀濃縮へのバイオロギングデータの応用、(vi)水銀の大気海洋物理モデルと広域生物モニタリングデータのカップリング、の概要を紹介する。

(2)  水圏低次生態系における元素サイクル解析法の課題
低次生態系は、実験的研究と観測的研究の融合が発展させやすい対象だが、さしあたり取り組んでいるのは、10-1000 μmのサイズを有する生物群の個体別微量元素濃度分析法である。これは、高次生物で実施中の生物種別の元素恒常性評価を、低次生物に応用する基盤を整備するためである。微細藻類、原生生物、小型甲殻類などを対象に、放射光X線マイクロビームを用いた個体別微量元素濃度・形態分析法の開発状況と展望について説明する。

(3)  環境 〜21世紀の陸水学〜
湖沼は、小規模な調査グループで水・生物・堆積物の包括調査を完遂でき、一研究者のライフスパンで環境変動への自然応答を観測できる貴重な天然の実験場である。湖沼学は長い歴史を有し、比較湖沼学的視点には目新しさがないが、そのような視野が共有されていた時代と比較すると、微量元素安定同位体分析や環境DNAなど、新しい技術ツール開発も進んできた。研究例として、(i)琵琶湖のヒ素濃度の経年変化、(ii)DOC生成による大気中水銀のポンプ機構、(iii)深水層酸素消費への底質由来還元型分子の寄与、(iv)湖沼の微量元素ホメオスタシス、の概要を紹介する。

—– 2021年度 GBSセミナー予定 —–
第1回 4/26(月) 板井
第2回 5/24(月) 佐々木
第3回 6/21(月) 博士中間発表
第4回 9/21(火) 修士中間発表
第5回 10/25(月) 鍵